糖尿病と共に生きる
覚王山内科・在宅クリニック若見 和子
総合内科専門医(日本内科学会)
糖尿病専門医(日本糖尿病学会)
緩和医療認定医(日本緩和医療学会)
他所属学会:日本内分泌学会、日本在宅医療連合学会
2016年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」によれば、糖尿病とその予備軍は合わせて約2,000万人と推計され、日本人の6人に1人に見られる一般的な病気です。
糖尿病には多くの合併症があり、予備軍のうちに早期発見し治療したいもの。日本糖尿病学会が定める糖尿病の治療目標は、合併症を予防し、「健常人と変わらない寿命と生活の質を確保すること」です。残念ながら治癒が難しい病気で、治療や観察は長期にわたります。継続の必要性やそれに対する取り組みについて当院の糖尿病専門医、若見和子医師がお話しします。
- 糖尿病とはどんな病気ですか?
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膵臓から出るインスリンというホルモンは、血糖を下げる唯一のホルモンです。このインスリンが出なくなる、あるいは効きが悪くなることで、高血糖になってしまうのが糖尿病です。高血糖の状態が続くと、血管を傷つけるため、全身の臓器に影響を及ぼします。代表的なのは、眼や腎臓や神経の障害。眼の網膜が障害を受けて失明、腎機能が低下し血液透析が必要になる、神経障害と脚の血流低下で下肢切断に至ることもあります。脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こすこともあります。糖尿病になっても通院して血糖値のコントロールを続けていればここまで悪くなることは少ないですが、治療を中断してしまうと合併症が進行するリスクが高くなるので、こまめに通い続けることが大事です。
- 糖尿病の原因と症状を教えてください。
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糖尿病には、インスリンが出なくなってしまう1型糖尿病、遺伝と生活習慣が主な原因の2型糖尿病、その他に膵臓の病気やホルモン異常、妊娠などによる糖尿病がありますが、その中でも患者数が多いのが2型糖尿病です。そして、糖尿病の大きな要因となるのが「肥満」です。内臓脂肪からはインスリンを効きづらくする物質が分泌されるため、肥満により内臓脂肪が増えると血糖値が上がってしまうのです。肥満の目安としては体重(kg)を身長(m)の2乗で割った数値であるBMI値を確認しておくとよいでしょう。22を標準とし、25を超えていれば肥満とされます。糖尿病の自覚症状には、「喉が渇く」「尿の回数が増える」「肥満気味だったのが急激に痩せる」などがあります。初期症状があまりない病気なので、健診の再検査で受診されて病気がわかる方が多いです。
- 「糖尿病かも」と思ったら、どのように調べればよいですか?
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糖尿病は尿と血液の検査で調べることができます。まずはご自身が糖尿病になっているのか、予備軍の段階なのかを医療機関で調べてみるといいでしょう。当院では、基本的には問診、診察、尿検査と血液検査を行い、必要であればレントゲンや心電図なども行います。問診ではアルコールや喫煙習慣、運動習慣をはじめ、職業や食生活に関することなど、生活面について細かくお伺いします。また、通常の採血では血糖値が高くなくても、食事をした時にだけ血糖値が上がる「食後高血糖」が見られることもありますので、さらに詳しく検査をする方法として糖負荷試験を実施することもあります。糖負荷試験とは、空腹時に甘いジュースを飲んでいただき、その後30分、60分、120分のタイミングで血糖値の上昇具合を調べるものです。
- 治療はどんなことをするのですか?
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病型に応じて選択します。1型糖尿病は、そもそもインスリンが出ないのでインスリン投与を行いますが、2型糖尿病ではまず食事と運動の指導をします。管理栄養士の指導のもとでの食事療法と、週3日1回30分以上の運動療法により薬なしで改善をめざせる場合もあります。それでも改善しない場合は状態に合わせた内服薬の処方、インスリンを出させたり食欲を抑えたりするのに有用なGLP-1やGIP/GLP-1受容体作動薬の注射、さらにはインスリン注射と段階的に治療を行います。インスリンの出る量によって治療法を考えます。インスリンを打っている患者さんには自己血糖測定を行っていただきます。24時間の血糖値がグラフで見られる機器も導入しています。また、新しい治療薬が出た場合にはできるだけ早く取り入れ、希望する患者さんに提供できるよう努めています。
糖尿病の治療には、生活習慣の改善と適切な薬の投与、経過を見ていくための定期的な通院が重要になります。
当院では、糖尿病療養指導士、看護師、栄養士がきめ細やかな指導を行い、患者さんの療養を支えています。
- 糖尿病療養指導士とは?
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近年、生活習慣の変化に伴い糖尿病が著しく増加しています。糖尿病治療の目標は、合併症発症の予防と進展の阻止をすること、そして健康な人と変わらない社会活動を可能にすることです。糖尿療養指導士は医師が指示する治療方針を正しく適切に患者に伝え、自己管理できるように支援する、糖尿病患者の生活指導のエキスパートとしての役割を担います。
糖尿病を受け入れ、自己管理を行うことは容易なことではありません。社会生活を営むうえで不安な事も多々あることでしょう。当院では糖尿病専門医のもと、個々の患者様の病態と生活環境に合わせた療養方法のご提案や、食事・運動など生活全般における療養指導ができるように心がけています。糖尿病療養指導士として、患者様とそのご家族の皆様に寄り添いサポートさせていただきます。